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夢の中で、僕は猫になっている

辺りを見回すと、ここは波に揺られる古い船の甲板であることがわかった。どこまでも広がる夜の海。いつからそこにいたのか、船上楽団が演奏を始めた。猫になった僕は、彼らの様子をしばらく見守ることにする。

 

楽団が演奏する曲は、僕にとって懐かしい曲ばかりだった。十代の終わり頃によく聴いた、数々の名曲たち。

やがて音楽に誘われるように、乗客たちが甲板に出てきた。楽団の演奏を聴きながら一緒に歌を唄ったり、手を叩いたり、踊ったり。

乗客たちも、やはり僕が十代の終わり頃に出会った人々だった。好きだった女の子、クラスの先生、よく遊んでいた友達。懐かしい人たち。懐かしい思い出。

 

目が覚めて、僕は不思議な気持ちになった。思い出というのは曖昧で、時間の経過と共にどんどん薄れていく。恋の苦さを味わった辛い日々も、友達と過ごした無邪気な季節も。例え「忘れないように」と強く願っても、指の隙間から流れ落ちていく砂のように、次第にその形を失くしていく。

それでも、忘れてしまっていたとしても。あの船の上で演奏された音楽や、一緒に楽しんでいた人々は、かつて僕と同じ時間を過ごしていたのだ。それを思うと不思議な気持ちになった。

 

夜の海に浮かぶ船の上。忘れられた記憶の中の人々を前に、彼らは演奏を続ける。今夜も誰かの夢の中で、船の上の音楽会は開かれているのだろうか。

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